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2018/06/05

本に書いてあることが正しいとは限らない

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間違った「定説」が誤った解釈を生み、世界を見えにくくさせる

政治家や外交官、官僚、研究者ら地政学の専門家たちにも広まっている「定説」は、インターネット上に限らず、新聞や雑誌、本においても、いくらでも見つけることができる。

たいていの「定説」は事実から生まれるが間違いも多く、それが誤った解釈を生み、私たちが世界を正しく理解することを妨げているのだ。

なぜ、それらは間違っているのか?
その裏には、いったいどのような事実が隠されているのか?


今回は、リベラルアーツシリーズ『最新世界情勢講義50』から、トピックを厳選して紹介したい。
世界の本当の姿を知る、
あるいは、賢い情報の扱い方・疑い方を考える機会としていただければ幸いだ。

連載一覧(順次公開)

▶ 専門家に聞いても国際情勢は理解できない
▶ 「オバマがアメリカを弱くした」という批判は見当違いである
▶ ドナルド・トランプこそがアメリカを弱体化させている
▶ テロは脅威だが、重大視し過ぎてはいけない
▶ 本に書いてあることが正しいとは限らない

よくある思い込み

本は、知識であると同時に読者への知識の伝達を担うものである。
本を書く人は、一般の読者とは比べものにならないほど深い見識を持っているものだ。
本は長きにわたる労力の結晶であり、深い考察と知の集合体である。

インターネットとテレビの時代にあって、本は、参照、検証、学術的信憑性のよりどころとして、特別な地位を保っている。

本に書いてあることが正しいとは限らない

本には本当のことしか書かれていないはずだと信じるのは、学生によくある間違いだ。
「本当ですよ、本に書いてありましたから!」という台詞を、論証の裏付けや、果ては補強として学生たちが使うのを、何度耳にしたことか。

単刀直入に言って、すべての本の内容が、事実をなぞり、背景と関連づけて文章にしただけの中立的なものだとは限らない。

歴史の教科書はその興味深い例で、編集時の国家のイデオロギーをきわめて強く反映する。
かつてのフランスとドイツの歴史教科書を―たとえば第一次世界大戦について―並べて比べるだけでわかるが、
同じ事実から同じ記述は生まれないし、ましてや同じ解釈は生まれない

確かに、独仏はこの60年ほどで大きく歩み寄り、その結果、今では共通の歴史教科書が作られている。
目的は「ドイツとフランスの生徒に共通の歴史認識の基盤を与える」ことだ。

両国が共通の歴史について意見を一致させられるというこの事実そのものが、現在のイデオロギー上の歩み寄りを示す。
その反面、こうした教科書の共同刊行が珍しいとされており、その事実が実践の難しさを示してもいる。

たとえば、フランスとアルジェリアに共通の歴史教科書が作成される日はいつか来るだろうか?


もちろん、教科書以外にも、書き手がある特定の説を擁護したり、見解を表明したりする本はごまんとある。

やり方があからさまな場合もあれば、さりげない場合もあるが、いずれの場合も目的は、知らずしらずのうちに読者を書き手の考えになびかせることだ。
そのような本が書かれるのは、書き手の真摯な信念からという場合もあれば、読者に信じ込ませることが書き手の利益になるからという場合もある。
より中立的に見えるテーマ(経済学や生物学など)の本にも、偏向した主張が盛り込まれていることがある。

本を開く前に、
誰(大学教員、ジャーナリスト、政治活動家)が、
いつ、
どこで(国、機関、時代)、
なぜ(どの出来事を受けて、あるいはどのような帰結を見越して)
書いたのかを知ることが望ましい。

そうすれば、書き手がどんな「色眼鏡」を通して現実を観察し、それを読者に伝えようとしているかが推測できる。

信頼に足る検証された内容(年号・日付、数字、名称など)の提供を書き手に求める権利を、読者は有している。
ただし分析については、書き手がいかに客観的であろうと努めても、完全に中立ということはあり得ないのだが。

結局、世界を襲う危機をなくすことはできないし、ことにテロの脅威を一掃するのは現実的ではなさそうだ。
地政学では、リスクがゼロということはあり得ない。

近年、イスラム国(IS)によって、イラクとシリアの領土にテロの基盤が築かれた。
とは言え、テロの脅威は欧米諸国にとって、かつてのソ連の脅威と肩を並べるほど大きくはない。

ことほどさように、もちろん本書も含めて、本に書いてあることにはすべて真偽を疑う余地がある。
賢い読み方をすれば、読書の価値は2倍になるはずだ。

『最新世界情勢講義50』 Lecture 01:本に書いてあることが正しいとは限らない(pp.15-18)

Copyright (c) of the original French language edition 2017, seventh edition, Armand Colin, Malakoff.
ARMAND-COLIN is a trademark of DUNOD Editeur - 11, rue Paul Bert - 92240 MALAKOFF

最新 世界情勢講義50

著者:パスカル・ボニファス
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2265-9

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799322656
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799322659


【連載一覧】(順次公開)

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▶ 「オバマがアメリカを弱くした」という批判は見当違いである
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▶ 本に書いてあることが正しいとは限らない

カテゴリ

社会科学

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