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2018/05/24

「オバマがアメリカを弱くした」という批判は見当違いである

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間違った「定説」が誤った解釈を生み、世界を見えにくくさせる

政治家や外交官、官僚、研究者ら地政学の専門家たちにも広まっている「定説」は、インターネット上に限らず、新聞や雑誌、本においても、いくらでも見つけることができる。

たいていの「定説」は事実から生まれるが間違いも多く、それが誤った解釈を生み、私たちが世界を正しく理解することを妨げているのだ。

なぜ、それらは間違っているのか?
その裏には、いったいどのような事実が隠されているのか?


今回は、リベラルアーツシリーズ『最新世界情勢講義50』から、トピックを厳選して紹介したい。
世界の本当の姿を知る、
あるいは、賢い情報の扱い方・疑い方を考える機会としていただければ幸いだ。

連載一覧(順次公開)

▶ 専門家に聞いても国際情勢は理解できない
▶ 「オバマがアメリカを弱くした」という批判は見当違いである
▶ ドナルド・トランプこそがアメリカを弱体化させている
▶ テロは脅威だが、重大視し過ぎてはいけない
▶ 本に書いてあることが正しいとは限らない

よくある思い込み

イスラム国の誕生、(シリア大統領の)バッシャール・アル=アサドに対する無力、中国の台頭、
ロシアによるクリミア併合、中近東の和平を実現できなかったこと。

バラク・オバマは、外交政策で対応力に欠け、弱腰だったため、アメリカのリーダーシップを弱めたのではないかと批判されている。

「オバマがアメリカを弱くした」という批判は見当違いである

バラク・オバマは、自分が当選したのは新たな戦争の火蓋を切るためではなく、ジョージ・W・ブッシュがアメリカを巻き込んで始めた無謀な戦争を終わらせるためだと考えていた。

彼が何より優先したのは、アフガニスタンとイラクからアメリカ軍を整然と撤退させることだった。
ところが、イラクとシリアの領土内にイスラム国が誕生したため、共和党からは「ブッシュは戦争に勝ったのに、オバマがイラクを失った」などと言われるようになる。

この言葉は不当だ。
なぜなら、この地域の惨状の元凶は、そもそもアメリカが2003年(訳注:ジョージ・W・ブッシュ時代)に始めた戦争だからだ。

シリアに関しては、オバマが自ら引いた「レッドライン(越えてはならない一線=化学兵器使用)」を守らせることに失敗したという非難は可能かもしれない。
オバマは、アサド政権が化学兵器を使用すればアメリカが介入すると示唆していたにもかかわらず、2013年8月に使用が確認された際、何の手も打たなかったからだ。

しかしながら、この無為の埋め合わせをしたのが、シリアの化学兵器廃棄に関し、ロシアの協力を得て同意に至ったことである。

シリア内戦で露呈したのは、アメリカだけでなく国際社会全体の無力さだった。
ロシアがバッシャール・アル=アサドの側に与していたにせよ、バラク・オバマも、西側諸国も、湾岸諸国も、大規模な紛争に巻き込まれることは望まなかった。
どの国もイラクの失敗例を忘れていないし、欧米による軍事介入がこの地域に引き起こしかねない数々の問題が念頭にあるからだ。

オバマは2009年に受賞したノーベル平和賞に価しないという批判もある。
彼はイスラエル・パレスチナ間の和平交渉を進展させられなかった。
イスラエルの入植停止を求めたあと、手をこまねいて入植の継続を傍観していただけであり、アメリカ連邦議会の大きな支持がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を利することになったのだ、と。

一方で、バラク・オバマは、ビン・ラディンを倒したときの大統領でもある。
アメリカが告発したテロ容疑者たちをパキスタンとイエメンで掃討するため、おびただしい数のドローンを利用した。

また、2015年7月14日のイラン核合意により、36年の不和ののち、同国と歴史的和解を成し遂げた。
さらに、1960年代初頭以来断絶していたキューバとの国交も回復させた。

両国との歩み寄りは、アメリカの右派からは独裁体制に対する譲歩と批判されてもいる。
しかしながら結局、ジョージ・W・ブッシュが大統領を2期務めたあと惨憺たる状況となっていた世界で、アメリカのイメージを大きく改善することになったことは確かである。

よく言われるアメリカの「相対的衰退」は、アメリカの振る舞いそのものよりも、他の新興国が台頭した結果である。
オバマは、構造的な変化を加速させたのではなく、減速させたのだ。
そして、アメリカの独自性は保ちつつ、前任者よりも「多国間的」アプローチをとった。

オバマの哲学を要約すれば、「アメリカは単独では世界の諸問題を解決できないが、アメリカなしでは世界の大きな問題を何一つ解決できない」となる。
また、軍事介入はアメリカのリーダーシップの唯一の要素でもなければ主要な要素でもないと、彼は明言している。
それでも、ロシアと中国の軍事増強計画にもかかわらず、この領域では、アメリカは相変わらず他の追随を許さない。

失業率は2015年に労働力人口の5.5パーセントというきわめて低い率にまで下がった。
国民の収入格差は深刻なままであるものの、アメリカ経済は2008年の大不況から脱している。

オバマの任期が終わる頃も、アメリカの強さの源は相変わらず健在だった。
依然として国民総生産では世界第1位で、ドルは基軸通貨だった。
アメリカの企業は常に最強で、多くの分野、ことに先端技術で主要な位置を占めていた(GAFAの4社だけを見ても、世界を席巻している)。
アメリカは常に世界中のエリートを強く引きつけ、目覚ましい統合力を発揮し続け、大衆文化(映画、音楽など)では圧倒的に世界一の座にある。
アメリカ合衆国は、その社会もライフスタイルも、大勢の人々の憧れの的だ。

その意味で、アメリカはいまだに求心力と影響力、いわゆる「ソフトパワー」を発揮し続けている。

バラク・オバマ自身は、グローバル化した世界におけるアメリカの行動の限界を認識していた。
だが、アメリカ人のなかには、一極世界とアメリカの「自明の運命(訳注:アメリカが拡大するのは運命であるとし、開拓や帝国主義を正当化する説)」の神話を信じ続け、この重大な変化に気づいていない人々が少なくないのだ。

『最新世界情勢講義50』 Lecture 21:「オバマがアメリカを弱くした」という批判は見当違いである(pp.118-122)

Copyright (c) of the original French language edition 2017, seventh edition, Armand Colin, Malakoff.
ARMAND-COLIN is a trademark of DUNOD Editeur - 11, rue Paul Bert - 92240 MALAKOFF

最新 世界情勢講義50

著者:パスカル・ボニファス
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2265-9

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799322656
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799322659


【連載一覧】(順次公開)

▶ 専門家に聞いても国際情勢は理解できない
▶ 「オバマがアメリカを弱くした」という批判は見当違いである
▶ ドナルド・トランプこそがアメリカを弱体化させている
▶ テロは脅威だが、重大視し過ぎてはいけない
▶ 本に書いてあることが正しいとは限らない

カテゴリ

社会科学

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