DISCOVER 21 LEBERAL ARTS COLLEGE

世界が変わる、世界を変える

search
open
 >   > 平成が終わる―今あらためて考える「天皇制」
2018/03/30

平成が終わる―今あらためて考える「天皇制」

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年4月30日、天皇陛下の退位とともに「平成」は終わります。
1つの時代が幕を閉じる日を目前に控えた今、私たちが考えるべきことは何なのでしょう。
天皇制について考え直してみることは、中でも大きな意義をもつのではないでしょうか?

日本の天皇制は、憲法と切り離して考えることはできません。
憲法の中で天皇がどうとらえられているかあらためて確認し、改憲論争の中で天皇制がどう変わっていく可能性があるかについて、今回は考えていきたいと思います。

白川敬裕氏は、自身の著書である『憲法がヤバい』(白川敬裕著 / ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、
”(憲法改正論争について)改憲派・護憲派のどちらが正しいかという考え方ではなく、今一度憲法の本質を確認し、改正案の中身については個別にその是非を判断していく必要がある”
と述べています。

ここに示されているのは憲法改正のあるべき姿です。
憲法の本質を意識しながら、日本の天皇制についてみていくことにしましょう。

  1. 憲法の本質はどこにある?
  2. 改憲によって、天皇制はどう変わる?
  3. 私たちにできること

憲法の本質はどこにある?

憲法はそもそも、法律とは別物です。
憲法と法律の大きな違いは、”何(誰)に向けられた法か”というところにあります。


法律は基本的に、我々国民に向けられたものです。
いわゆる、”刑法”や”民法”といったものが法律にあたります。

例えば、刑法の中の「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」という条文は、
かつての戦国時代のように”謀反”を起こさないように国民を強制するルールということになります。


これに対して憲法は、国民に向けられたものではありません。
憲法は、国、すなわち国家権力に向けられています。

言い換えれば、「人間であることよって当然に有する権利(=基本的人権)を保障する」ことが、現在の憲法の重要な役割です。

そのため、「何人も~」という表現が何度も登場します。
実際、いまの憲法の人権規定に登場する「何人も」という単語を受ける述語を並べると、
”権利を有し” ”保障する” ”強制されない” ”自由を有する”
などの記述が出てきます。


憲法は、国民を強制するのではなく、国民の自由を保障する
という方向性をもっています。
そして国民の基本的人権を保障するには、国家権力による基本的人権の侵害を防がなくてはなりません。
そのために国家権力を縛ることこそが、憲法の本質なのです。

改憲によって、天皇制はどう変わる?

先ほど紹介した本質をベースに、現行憲法と改憲草案の”天皇の捉え方の違い”について見てみましょう。

現行憲法の捉え方

現在の憲法では、天皇は次のような存在として定められています。

【第1条】
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

つまり、「日本国民の総意によって、象徴の地位をお願いされた存在」が天皇ということになります。
天皇を見ると”日本という国”を想起・連想させる、そんな存在だということです。

尚、天皇が象徴であることが憲法に規定されているのは、社会心理の醸成・維持を願ってのこと、と言われています。

改憲草案の捉え方

これに対して、自由民主党が2012年に提出した「改正草案」では、天皇の地位について、

日本国の元首であり、日本国および日本国民統合の象徴であって

という表現に改められています。
天皇が元首であるということを明記することに、一体どのような意味があるのでしょうか。

天皇の”立場”

「元首」にはいろいろな意味があります。

元首は、もともと、

① 国の統治権を一手に握り、
② 行政権の首長であり、
③ 外国に対して国家を代表する権限を持つ

君主を意味していました。

しかし、やがて②③のみ、あるいは③のみをもつ存在についても元首と呼ぶようになりました。


「象徴」としての天皇が①と②を持たないことは明らかですが、
「③ 外国に対して国家を代表する権限を持つ」かどうかについては、大きく2つの考え方に分かれています。

A. 日本を代表して条約を結んだり、外交関係を処理したりするのは内閣総理大臣だから、天皇には③の権限はなく、元首とはいえない。
B. 天皇は、条約の批准書や外交文書を公に証明したり、外国大使に接見したりするから、元首と呼んでもよい。

天皇が元首であるとしている改正草案は、B.の立場だと考えられます。

改正草案の変更点

改正草案には天皇について元首であると明記している点のほかにも、以下のような点で、いまの憲法との間に違いが見られます。

▶ 前文で、「日本国は、……国民統合の象徴である天皇を戴く国家である」と宣言している

▶ 「国歌は君が代とする」と定めるだけでなく、「日本国民は、国歌を尊重しなければならない」と規定している


▶ 天皇の権限に関して、現行の「天皇は、この憲法に定める国事に関する行為のみを行い」の文言から「のみ」を削除している

これは憲法上、天皇の権能が国事行為に限られないことを明記したという意味を持ちます。
つまり、天皇の権限が拡大することになるわけです。

これらの変更には、どのような意味がある?

総合的に考えると、改正草案は、象徴である天皇に、”実際に国民を統合する役割”を期待しているように感じられます。
この捉え方では、どのようなことが起こる可能性があるのでしょうか?


前に述べたとおり、憲法の本質は、国民の権利・自由を保障するために国家権力を縛ることにありました。
しかし、改正草案の天皇の捉え方では、この本質が失われるかもしれません。

例えば、政府が国民を統合するために天皇を利用する事態が起こってくる可能性があります。
天皇を中心とした国家統率のもとで、政府が自らの意向を、天皇を通して国民に強要するような状況になってくるかもしれません。

実際に、明治憲法では、軍人が政治に関与しないことが明記されていませんでした。
そして、天皇が軍隊を統率・指揮すると定められており、軍人が天皇を補佐する地位にあったことなどから、
軍部が国を動かす権力を握ってしまったという経緯があります。

このようなことになれば、憲法の本質である国家権力を縛るという役割が薄れてしまいます。


憲法の文言が少し変わるだけで、日本の天皇制は大きく変わる可能性があるのです。

私たちにできること

『憲法がヤバい』の問題意識の中心は、憲法の本質がおざなりにされたまま改憲論争がなされていることにありました。

なにか変化する物事がある時、その是非を判断するためには本質がどこにあるか見抜くことが必要です。
日本の天皇制を見つめなおす際も、それは変わりません。
憲法がどのように天皇を規定しているか、つまり、そもそも天皇とはどういった存在かという本質的な部分から始めなければなりません。

天皇陛下の退位によって平成が終わり、新たな時代を迎える中で、あるいは憲法改正論争の中で、私たち国民一人ひとりがこの本質をしっかりと心に留めておくことが求められているのです。

(文責:森祐斗)

憲法がヤバい 改訂版

著者:白川敬裕
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2126-3

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799321269
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799321263

カテゴリ

社会科学

関連記事

インドネシアから見る”知られざる”イスラーム

はじめに イスラームと聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるだろう。アル=カイダやISISといった過激派組織によるテロ事件、お酒や豚肉を食べてはいけないといった厳しい戒律、女性に対してヴェールの着用を義務付けるという男女差別や女性への抑圧…などだろうか。しかし、そういったイメージは表層に過ぎない。実際のイスラームはもっと”奥が深い”。この記事は、偏見を持たれがちなイスラームの実態を明らかにし、イ...

仕掛け人が明かす「流行のスイッチ」の見つけ方

モノがなく貧しい、いわば「モノに飢えた時代」に消費者のニーズを見つけ出すことは、今から考えるとシンプルで簡単でした。より良い生活、より便利な生活、よりスタイリッシュな生活を提案すれば良いからです。しかし今は、モノに溢れ、物質的には豊かになったものの、精神的に満たされない、いわば「心が飢えた時代」になりました。多くの企業が、こうした複雑な時代のニーズを掴めずに苦汁を味わっています。そんななか、ニーズ...

”独裁”は悪いことなのか?

現在の日本の社会について、押さえておくべきポイントが2つあります。ひとつは、「中小企業の事業継承」についてです。平成29年の経産省の発表によれば、今年10年で70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人で、そのうちの半分の企業が後継者未定といわれています。これから100万人以上の社長が不足する中で、トップに立つべき人が求められるようになります。2つ目は、「今年が副業元年となりそうだ」...

Facebook