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2018/03/15

スティーヴン・ホーキング博士による序文「存在:私たちはどこから来たのか?」

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私たちはなぜここにいるのか? 私たちはどこから来たのか? 中央アフリカのブショング族には、こんな言い伝えがある――人類が生まれる前、この世には闇と水、そして偉大なる神ブンバだけがあった。ある日、ブンバは腹痛を起こして嘔吐した。吐き出されたのは太陽だった。太陽の熱で、あたりの水が蒸発して陸地が現れた。ブンバはなおも苦しみながら、月とたくさんの星を吐き、それからヒョウとワニとカメ、最後に人間を吐き出した――。

こうした天地創造の神話は、世界各地に似たようなものが存在する。そしてどの物語も、現代の私たちが今なお問い続けている問題を様々に扱っている。本書で明らかにされるように、現代人には幸いにも、答えを導き出すための道具がある。科学という道具だ。

「宇宙の始まり」をめぐって

冒頭のブンバの話で語られているような「存在の謎」に関して言えば、1920年代に最初の科学的な根拠が見つかっている。それは、カリフォルニア州のウィルソン山天文台で、エドウィン・ハッブルが望遠鏡を使って天体観測を始めたときのこと。ハッブルは、観測可能なほぼすべての銀河が私たちから遠ざかりつつあるということを、驚きをもって発見したのだ。銀河は、遠くにあるものほど速い動きで遠ざかっていたのである。宇宙が膨張していることを意味するこの現象は、人類の全歴史を通じてトップクラスに重要な発見であった。

この発見によって、「宇宙に始まりがあったかどうか」という議論に転機が訪れることとなった。現在すべての銀河が遠ざかりつつあるなら、過去にはそれらがもっと近くにあったと考えられる。もし運動速度が一定だったとしたら、何十億年か前には全銀河がひとところに集まっていたとも考えられる。はたして宇宙は、そのような状態から始まったのだろうか?

当時の多くの科学者たちは、「宇宙に始まりがあった」とするこの考え方に納得しなかった。彼らにとってそれは、物理学の挫折を意味するように思えたからだ。宇宙がいかにして始まったかを説明しようとするとき、外から何らかの力が働いたとしか言いようがなく、それを都合よく神のせいにすることを可能にしてしまうのである。そこで科学者たちが展開したのは、「宇宙は今は膨張しているが、始まりがあったわけではない」という理論であった。

検証と観測による新しい解釈

おそらく最もよく知られているのは、1948年に登場した「定常宇宙論」と呼ばれる理論だろう。宇宙は永遠の昔から存在し続けているが、その様相は常に一定で変化がない、ということを提唱した理論である。この理論の最大の長所は、「常に一定で変化がない」という性質が検証可能な予測であるとしたところ。なぜなら検証こそ、科学的手法に欠かせない要素だからだ。しかしその後、この理論は完全ではないことが明らかになった。

1965 年10月、宇宙全体のバックグラウンド(背景)にかすかなマイクロ波が存在することが発見された。観測に基づくこの事実は、宇宙にきわめて高密度の始まりがあったという考え方を証明することとなったのだ。合理的に考えれば、この「宇宙マイクロ波背景放射」が高温・高密度状態の初期宇宙の名残であると解釈する以外にない。宇宙が膨張するにつれて放射の温度が下がった結果、今日私たちが見るような宇宙の姿になったのだ。

時間が始まった場所

その後、この考え方は理論的にも裏付けられることになった。もしアインシュタインの一般相対性理論が正しいなら、密度と時空の曲率が無限大になる「特異点」が必ず存在するということを、オックスフォード大学のロジャー・ペンローズと私が示したのだ。そしてこの特異点においてこそ、時間が始まったのである。

ビッグバンで始まった宇宙はその後、またたく間に膨張した。「インフレーション」と呼ばれるこの膨張は非常に急激なものであった。1秒に満たないほんのわずかな瞬間に、宇宙はとてつもなく拡大したのだ。

このインフレーションによって宇宙は、きわめて大きく、きわめて滑らかで、きわめて平坦なものになった。ただし、完璧に平坦というわけではなく、ところどころに、ごくわずかな変動(ゆらぎ)が存在した。そして、そのようなゆらぎから、やがて銀河や恒星や太陽系が誕生することとなった。

私たちはゆらぎの産物

私たちが存在するのも、このゆらぎのおかげである。もし初期宇宙がまったくむらのない滑らかな状態だったら、恒星は存在せず、生命も誕生しなかっただろう。私たちは、原始宇宙で起きた量子ゆらぎの産物なのである。

この世にはまだ、これから明らかにされるであろう無数の大きな謎が未解決のまま残されている。それでも私たちは、たゆみなく前進しながら、古来不変の問いを問い続けるのだ。私たちはどこから来たのか。そして私たちは、こうした問いに取り組むことのできる、宇宙で唯一の存在なのだろうか、と――。


起源図鑑 ビッグバンからへそのゴマまで ほとんどあらゆることの歴史

著:グレアム・ロートン
絵:ジェニファー・ダニエル
訳:佐藤やえ
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2207-9

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799322079/
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799322079

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