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2018/06/11

人間の本質とは ~人の進化とAIの進歩から考える~

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人間とは何か?

人間とは何かー

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「人間はポリス的動物である」と定義しました。
また19世紀を生きたパスカルは「人間は考える葦である」と言いました。
人間は自然界で最も弱い葦にすぎない。
しかし考えることができる葦であると。

はるか昔から、人間はこの難問の答えを探し続けてきました。

人々の考え方は時代ごとに変化していくので、返ってくる答えも大きく異なることでしょう。
しかし中でもこの21世紀は、特異な時代なのではないでしょうか。
ヒトゲノムがほぼ解析され、生命の起源が明らかになろうとしている一方で、人間に作られた人工知能が人間自身を大きく超えようとしているのですから。

そこで今回は『これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講』の中で紹介されている2つの視点を参考に、現代を生きる我々なりの答えを探してみようと思います。

まずはじめに山極寿一氏による、サルの研究という人類の起源からの視点
そして池上高志氏による、人工生命というモデル・機能の側面から人類に迫る視点です。

  1. なぜ人間は進化し続けることができたのか
  2. 人工知能は人間を超えるのか
  3. 人間の本質とは

なぜ人間は進化し続けることができたのか
(「人間はデータから脱出しなければならない」:京都大学総長 山極寿一氏)

人間に最も近しいと言われているチンパンジーは、700万年ほど前に人から分かれたといわれています。
そんな彼らと私たちの遺伝子は、たったの1.2%しか違わないとされていますが、なぜ人間は他の霊長類と違い、進化し続けることができたのでしょうか。

注目すべき点は、人間の脳の大きさにあります。
人とチンパンジーの遺伝子はほぼ同じはずなのに、彼らの脳容量が400㏄程であるのに対し、人間の脳は1500㏄もあります。そこには実に4倍近い差が生じています。


このわけを説明する上で、現在定説となっているのが「社会脳仮説」です。
この説によると、脳の大きさは集団の規模と正比例するというのです。

たとえば、化石人類などのような更新世に10~30人ほどで暮らしていた集団の脳は500㏄程しかありませんでした。しかしその後40~50人ほどで暮らしていたホモ・ハビリスという人類の脳は700㏄まで発達していたのです。それが現在は1500㏄にまで到達しているわけですが、この説に則ると、我々の脳は本来150人ほどの仲間の名前や性格、好みを覚える力しかありません。

考えてみると確かに、私たちが日々の生活の中でふれあい、会話を通して、本当に「知り合い」であるといえる人はせいぜい150人程度である気がします。


しかし文明が発達した現代を生きる私たちはあまりにも多くの人とつながっています。そのため人々は物に名前を付けることで記憶の多くを外部に委託してきました。委託先は本であったり、コンピュータであったりするわけですが、我々は仲間のことをより精緻に知るために生み出したはずの言葉によってむしろ、どんどん脳を空っぽにし、相手のことを深く理解しようとすることをやめようとしてしまっているのです。

人間が進化するためには「脱・サル化」が大切になる

山極氏はこの現象を「人間社会のサル社会化」と表現しています。

サルは相手の考え方や能力を理解する共感力を持っていません。
母親は子ザルが自分にとって大切な存在だと認識することはできますが、「わが子の能力が自分より未熟である」ということを理解することができないのです。
そのため敵に追われた時、自分一人で逃げてしまい、子供が食べられてしまうということが起こります。
ゆえに彼らはグループの中に「強い、弱い」などの序列をルールとして設けることで、相手と自分の間に境界線を作り、争いを避けているのです。

しかし人間はその反対で、相手のことを理解し、信頼することで互いに支えあって生きてきました。 ですが人との関係が希薄になる中で、対話の中で生まれるはずの共感力が失われつつあります。これが人間社会のサル社会化です。


そしてさらに深刻なことに、インターネットがサル化を促進しているのです。
人が他人への信頼感を得るためには生身の交わりを通す必要があります。
しかしインターネットの発達により、バーチャルで人とつながる必要が出てきました。
それにより身体感覚が薄れ、信頼できる人自体が減ってしまっています。

つまり人間を人間たらしめているのは人と交わる中で発達した社会脳ですが、それが今文明の発達により失われようとしているのです。

人工知能は人間を超えるのか
(「人間も機械も『人工生命化』していく」:人工生命研究者 池上高志氏)

一方でインターネットやAIを活用することによって「人間とは何か」という問いに答えを見出そうとする試みも始まっています。

いまや、ニュースで見ない日はないと言ってもいいほど注目されているAI。
たとえば、昨年5月に当時世界最強と言われていたプロの囲碁棋士の柯潔選手をgoogleのAlphaGoが打ち破ったことは記憶に新しいと思います。プロ棋士に初勝利してからわずか2年足らずのことでした。

このように日々ものすごい速さで進化しているAIですが、もし彼らがこのまま成長し続けたなら、人間をも超える日が来てしまうのでしょうか。

人間の本質は自動と自律

AIは、言い換えれば「人間の脳の数理モデル」です。
機能や特性に注目し、それを再現するような数式・シミュレーションから、本質に迫るものです。

AIの進歩・開発が進むにつれ、AIと人間の間にはどのような違いがあるか、機能面から、ヒトの本質も分かってきました。

それは、「自律性」です。
生命は自律的に動いているので、自律性について考えないといけない―
人工生命を専門にされている池上高志氏はそう話します。

「自動」と「自律」という言葉があります。
ある動作を代わりにやってくれる、というのが自動化です。
先ほど挙げたAlphaGoや銀行の効率化システムなどを思い浮かべていただければ分かりやすいでしょう。


しかし、自動化は生命やヒトの本質ではありません。
外から動機づけされなくとも、自分で決めることができる力—自律性こそが人とAIの大きな違いです。
現段階ではいまだ多くのAIが自動化を目指す段階にあるので、まだしばらくは自律性を必要とする芸術分野や一人一人と密接なコミュニケーションをとらなければならない教育現場では人間に分があるでしょう。

ただし見落としてはいけないのは、自動化ではすでにAIのほうが勝っているということです。
自動化とは、効率を上げるということです。
ですので、膨大な単純計算を必要とする銀行業務がAIにとってかわられているということは、効率性という点ではもはや人間は人工知能に勝てない、ということの証明でもあります。

人間の本質とは

では、人間が独自の進化を遂げるきっかけをくれた社会脳が機能しにくくなり、自らが生み出したAIによって多くの活動が奪われようとしている現代を生きる我々は「人間とは何か」という問いにどう答えればいいのでしょうか。


私は「相手に対する思いやりを持っていること」こそが人間の本質である、と考えています。

人は周りの人との密接なコミュニケーションにより脳を発達させてきました。
たとえば何かを食べようと思ったとき、サルはルールに従ってみんなで離れ合うことで喧嘩を避けます。

しかし人間はむしろ自分の得た食べ物を持ち寄って、一緒に食べることで、助け合ってきたのです。
時には不平等を覚えることもあるかと思いますが、相手のことをよく知り、他人のために自律的に行動することで、たとえルールがなくとも、コミュニティー内の安寧は保たれてきました。


確かに新たに知らない人と関わり、理解しようとすることは大変な労力を必要とします。また何か商品を買おうとしたとき、AIがおすすめしてくれるままに選べば時間もかからず楽でしょう。
しかし技術の発達により、人間の活動の大半が外部に委託されてしまった今、人に唯一残された自分で選択する自律性と相手を深く理解する共感力を生かすことこそが大切なことではないでしょうか。

(文責:平井聡一郎)

これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講

著者:水野和夫,東浩紀,池上高志,石川善樹,伊東豊雄,佐々木紀彦,原研哉,深澤直人,平野啓一郎,松井みどり,山極寿一
編著:菅付雅信
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2241-3

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799322419
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799322413

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