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パフォーマンスを大きく変える、ちょっとした”意識”の工夫

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あなたは運動中、どのようなことを考え、何を意識しているでしょうか?
普段自分が何を意識して運動しているのかを思い出せない人も多いのではないでしょうか。

実は、運動のパフォーマンスは、身体能力や運動技術だけでは決まりません
運動の際に何を意識するか”によってもパフォーマンスは変化するのです。
そして、運動中の意識の向け先とパフォーマンスとの関係について研究しているのが、“注意の焦点付け(focus of attention)”という分野です。


”意識の焦点付け”とは、自分の動きに意識を行うこと、また周りの景色やゴールを意識することを指します。
この意識を行うことには、「能動的に(効率的な動きを)コントロールができる」「即時的な効果が期待できる」という大きく2つのメリットがあります。
例えば、緊張する大会や場面において、より実力に近いパフォーマンスを発揮することができます。
例えば、スポーツを始めたばかりの子や苦手な子が、効率よく運動を学習しくように促すことができます。

この研究が進めば、スポーツにおいて“本番に弱い”と言われる選手を減らしたり、運動嫌い・運動が苦手な子を減らすことができます。
また、パフォーマンスの発揮という意味においては、多くの分野・場面で応用することができる可能性があります。


今回は体育・スポーツ分野で注意の焦点付けに関する研究を行っている大木雄太氏(筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士後期課程 体育科学専攻)に、何を意識すればパフォーマンスを高められるのか、今後、運動における意識の研究がどのように発展していくのかについてお話を伺いました。

―研究に取り組もうと思ったきっかけは何ですか?

きっかけは、ふと見かけたあるカップルの行動でした。
靴に挟まった小石を取ろうとして片足立ちになった男性に対して、その彼女が目隠しをしたり話しかけたりしていました。
男性の動きを観察していると、目隠しをされた時、あるいは会話をしている時に限り、片足立ちのバランスが崩れているように見えたのです。

スポーツにおけるパフォーマンス変化は、主に緊張やあがりといった“覚醒水準”によって決まるという説が一般的です。
しかし、この男性がバランスを崩している理由は、親しい彼女との会話であり、覚醒水準の変化によるものではないと考えられます。
その現象の原因を探るうちに、“意識”が関わっているという結論に至りました。

改めて先の男性に起こった現象を説明すると、彼女に話しかけられることによって、男性の意識が、バランスを保つことから、彼女との会話へと変化し、バランスを保つことへの意識が散漫になったために、結果としてパフォーマンスが低下したのです。

以上の経験がきっかけとなり、「“意識”によってパフォーマンスを最大限発揮する」ための研究を始めました。

―現在の研究では、どのようなことを意識すれば効果的だと言われているのでしょうか?

運動をする際に、何を意識すればよいのかは、運動課題によって異なりますが、主に内的意識(Internal focus)を用いるよりも、外的意識(External focus)を用いることが効果的であることが示されています。
内的意識とは「自分の身体の動きや状態など、自分の身体運動へと意識を向ける」こと、外的意識とは「ボールの軌道や目標物など、運動の効果へ意識を向けること」です。

例えば、ダーツだと肘の曲がりや指先の動きに意識を向けるよりも、ダーツボードの中心に意識を向けて投げたほうが、よりパフォーマンス(正確性)が良くなります。
そのほか、バスケットボールのフリースローでは、手首の動きに意識を向けるより、バスケットボールのリングに意識を向けたほうが、よりシュートが入るようになります。

他にも、遠投やジャンプなど様々な運動課題において、外的意識を用いることの有効性が示されています。
また、外的意識は日常生活で活用することもできるのです。

様々な課題における意識の例

運動課題 課題指標 外的意識(パフォーマンスが高い) 内的意識
遠投 距離 投げるボールの軌道(放物線) 手首のスナップを意識
ランニング 呼吸循環機能の効率 周囲の環境(景色) 自分の呼吸・動きを感じる
バスケットボールのフリースロー ゴール数 バスケットゴールのリング 手首の動き
ダーツ 中心からの距離 ダーツボードの中心 肘の曲がりや指先の感覚
テニスのバックハンド ショットの正確性 打つボールの軌道とボールの着地点 ボールを打つ位置(打点)
ジャンプ 跳躍高 到達点の目標物 脚の筋力発揮

日常での意識の例

日常での課題 外的意識 内的意識
一輪車 行きたい場所に注意を向ける バランスを保とうとする
コーヒーをこぼさないように運ぶ カップが動かないように 手を動かさないように


―なぜ外的意識を用いることが効果的なのでしょうか?

外的意識がパフォーマンスを高める理由は、主に2つの理論によって説明されます。
それは、Wulfら(2001)とMcNevinら(2003)によって提唱された“運動制約仮説”と、Masters(1992)が提唱した “意識的制御理論”です。

これらの理論では、自らの身体運動に意識を向けること(運動制約仮説)や心理状態に意識を向けること(意識的制御理論)で動きの効率が落ちたり、パフォーマンスが阻害されたりしてしまうことを説明しています。
例えば、目の前に置かれているコーヒーカップに手を伸ばそうとする時に、手や腕の感覚に意識を向ける方は少ないですよね。
おそらく、手や腕への感覚に意識を変えると、いつものようなスムーズな動きができなくなると思います。

―大木さんが行っている研究について教えてください。

運動における意識の影響については、「内的か外的か」という軸でしか語られてきませんでした。

しかし、それでは、あくまで意識を大まかに分類したに過ぎません。
そのため、運動制御に与える影響に関する新たな知見を得るためには、さらに詳細に検討する必要があります。

例えば、大まかに分類した内的意識には、身体の動かし方も感情も含まれています。
しかし、この2つを上記の理論に当てはめると、身体の動かし方は運動制約仮説、感情は意識的制御理論に当てはまり、違うものとして扱います。
そこで、内的―外的の軸に加えて、運動に関係する意識(動作関連)か、運動とは直接関係のない意識(動作非関連)かの軸を加えて検討を行い、2軸によって注意をカテゴリ化しました。


また、現在の研究では、全ての内的意識は一律にパフォーマンスを下げる効果があるとされています。
しかし、意識を向ける部位によって効果は異なる可能性があります。

そこで、ボールをどれだけ遠くに投げられるかという遠投課題について、実験を行いました。
具体的には、内的意識の条件を体幹のひねりと手首のスナップの2種類設定し、ボールの軌道を意識する外的意識とのパフォーマンスを比較しました。

その結果、体幹への意識は外的意識と同等のパフォーマンスを示し、手首への意識に比べてパフォーマンスが高くなりました。

つまり、内的意識のすべてがパフォーマンスに悪影響を与えるわけではないのです。
この研究ではさらに、意識の違いによる遠投距離の差は、ボールの速さではなく、軌道(投射角)の変化が影響していることが明らかになりました。
つまり、意識は運動のスピードに影響は与えませんが、運動のフォームに影響を与えることが分かりました。
現在は、どのような意識を用いれば運動学習が効率的に進むのかを研究しています。

―研究の今後の展望(将来的にどのようなことが可能になるのか)

本番でのパフォーマンス発揮に関わる心理的要因には、主に緊張やあがりといった覚醒水準と意識があります。
覚醒水準は受動的な心理状態であるため、高度なメンタルトレーニングを行わない限り、コントロールすることが難しいのです。
それに対し、意識は、ある程度の能動的なコントロールが可能であり、即時的な効果が期待できます。
例えば、大会時に緊張をしないようにすることは難しいですが、自分の身体感覚からゴールなどの目標物へと意識を切り替えることならできるのではないでしょうか。

そういった観点から、この研究の目指すところは、“本番に弱い”と言われる選手を減らすことにあります。
本番に弱い選手と言われると、小中学生などの低年齢層をイメージしがちですが、オリンピック選手でも、メダル確実と言われながら、惜しくも敗退した選手は数知れません。
つまり、いかなるレベル、いかなる規模であっても、出場するすべての選手が、自身の持つ最大のパフォーマンスを発揮して勝負できることに貢献したいと考えています。

これまではパフォーマンス発揮のみに焦点を絞ってきましたが、運動の学習においても意識は効果的な影響を与えることができます。
例えば、スポーツを始めたばかりの子どもが、効率よく運動を学習していくことの手助けになることが期待されます。
さらに、選手ではない子どもであっても、運動会のかけっこで1位を目指す際の一助にもなるでしょう。
また、怪我した時のリハビリにも有効です。


大木氏の目指す研究の未来が達成されれば、効率的な運動の学習によって、運動の苦手意識を改善することができます。
また、試合で自身の持つ最大のパフォーマンスを発揮できることによって、普段の練習成果が結果に表れるようになります。
そうなれば、「努力の大切さ」を学ぶ場として、今まで以上に運動・スポーツが重要視されることでしょう。

この研究が発展すれば、意識や集中の学習法が確立されることが期待されます。
現在、それに近いトレーニングと言えば、メンタルトレーニングであり、イメージトレーニングやリラックス法、マインドフルネストレーニングなどがあります。
これらはトレーニング法が確立されており、なおかつその効果も多くの研究によって確認されています。
それらに加えて、意識や集中にピンポイントでフォーカスしたトレーニング方法は、パフォーマンス発揮をさらにサポートするものになるでしょう。

意識が影響を与える“パフォーマンス”は、スポーツに限った話ではありません。
例えば、会議などでのプレゼンも立派なパフォーマンスの一つです。
大木氏は、「意識は人間の行動すべてに影響を有しているといってもよい」と述べており、意識に関する研究は、あらゆる場面での私たちのパフォーマンスをレベルアップさせてくれるものになるはずです。

 

参考文献

  • 大木雄太, 國部雅大, 中込四郎: 「注意の焦点付けが遠投パフォーマンスに与える影響」, 日本スポーツ心理学会 第43回大会 研究発表抄録集 (2016)
  • R. S. Masters: “Knowledge, knerves and know-how: The role of explicit versus implicit knowledge in the breakdown of a complex motor skill under pressure,” Brit J Psychol, Vol.83, Issue 3, pp.343-358 (1992)
  • N. McNevin, C. Shea, and G. Wulf: “Increasing the distance of an external focus of attention enhances learning”, Psychol Res, Vol.67, Issue 1, pp.22-29 (2003)
  • Y. Oki, et al.: “External versus two different internal foci of attention in long-distance throwing”, Percept Mot Skills, Vol.125, No.1, pp.177-189 (2018)
  • L. Schücker, et al.: “The effect of attentional focus on running economy,” J Sports Sci, Vol.27, No.12, pp.1241-1248 (2009)
  • G. Wulf, C. Shea, and J. Park: “Attention and motor performance: preferences for and advantages of an external focus”, Res Q Exercise Sport, Vol.72, No.4, pp.334-344 (2001)
  • G. Wulf, N. McNevin, and C. Shea: “The automaticity of complex motor skill learning as a function of attentional focus”, Q J Exp Psychol A. Vol.54, No.4, pp.1143-1154 (2001)
  • G. Wulf, (監修: 福永哲夫, 訳: 水藤健, 沼尾拓): “注意と運動学習―動きを変える意識の使い方”, 市村出版 (2013)

(文責:曽我部立樹)

【研究者インタビュー】

▶ あなたは大丈夫?正しい情報を読み取る方法
(江下 雅之:明治大学情報コミュニケーション学専攻教授)

▶ パフォーマンスを大きく変える、ちょっとした”意識”の工夫
(大木 雄太:筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士後期課程 体育科学専攻)

▶ インドネシアから見る”知られざる”イスラーム
(野中 葉:慶應義塾大学専任講師)

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