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世の中を動かす「戦略PR」とは?

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ビジネスやマーケティングの現場で起こっている「戦い」

現在、数えきれないほどの商品が世に放たれては消えています。
商品やブランドのキャッチコピー、ネットの動画やパンフレット、テレビCM―
わたしたちは一日の中で、一体どれほどの情報を目にしているか、ご存知でしょうか?

梅澤伸嘉氏著『ヒット商品打率』(同文館出版)によると、
わたしたちはなんと、一日に4000を超える広告メッセージを浴びています


情報も商品も溢れかえっている今、広告メッセージで新商品を差別化することはますます難しい。
こんな時代の中、ビジネスやマーケティングの現場では、いったいどのように商品を売っていけばよいのでしょうか?

こういった状況で重要になるのが、「そもそもそれが必要なのか、必要だとしてなぜそれでなければならないのか」という問いに応えること。
つまり、より説得力のある「買う理由」を作り出すことです。

例えばアイドル。
「遠く憧れの存在」から「会いに行ける存在」へ。AKBに代表されるように、この十年で求められるアイドル像が変化しました。

自動車教習所もそうです。
殿様商売ができなくなり、「厳しく教えてくれる教習所」より、「褒めて伸ばす教習所」が増えてきています。

専門用語を使えば“属性順位転換”、「いい○○」「求められる〇〇」を再定義することで、新しい「買う理由」が生まれていくのです。


では、この「いい○○」の再定義を“意図的に”起こすにはどうすればよいのでしょうか?
それが、今回紹介をする「戦略PR」という方法論なのです。

ここでは、長くPRに関わっている本田哲也氏の著書『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの方法』をもとに、戦略PRのポイントをお話します。
企画や事業の中での活用を考え、実践していただければと思います。

  1. そもそもPRって何?
  2. なぜ今PRを学び、行う必要があるのか?
  3. PRの目的は「行動を変えること」
  4. おわりに

そもそもPRって何?

“PR”と当たり前のように使っていますが、そもそもPRとは何なのでしょうか?
戦略PRの話に入る前に、PRの意味を確認しておきます。

PRとは、パブリックリレーションズ(Public Relations)、直訳すれば「公的な(Public)関係性(Relations)」という意味になります。
企業であれば、消費者はもちろんのこと、株主や取引先企業、従業員、メディアや専門家といった利害関係のあるプレーヤーと良い関係を築き、それを維持すること。
企業や組織が世の中とうまくやっていくための戦略やノウハウの総称がPRなのです。


かつてPRは政治的な戦略として用いられており、18世紀後半の米国の独立戦争が起源と言われています。

イギリスからの重税に対する反発から独立戦争を仕掛けたワシントンたちでしたが、イギリス軍との戦いにおいて徐々に押され始めていきます。
この劣勢を逆転させたのが、1776年、トマス・ペインによって刊行された『コモン・センス』でした。
「コモン・センス」は空前のヒットとなり、“三ヵ月で一万二千部の当時では空前のベストセラー”(『史料が語るアメリカ史』)となりました。

この中では、
イギリスの王政と世襲支配に正当性はなく、アメリカはただちに独立して独自の安全な政府をつくるべきであること、
13州が連帯すれば自力での独立も可能であり、戦うなら今しかないこと
が力強く述べられ、世論に影響を及ぼします。

独立戦争の正当性を啓蒙したことで、アメリカは劣勢から逆転することができたのです。

「英国からの独立を果たす」という事業目的のために、「世論を喚起」させた、最初のPR戦略でした。

PRと広告の違い

“PR”と聞くと、パブリシティや広報、または広告を打つことをイメージされる人も多いかもしれません。
しかし、基本的には広告とPRは性質が異なるものです。
(ここ数年で広告とPRの融合が進んでいる部分もあるのですが…)

広告とは、「企業が発信したい情報を、広告枠を購入して流す」ものです。
対してPRは、「メディアやインフルエンサーに情報を提供する」ためのものです。

この特性の違いから、表に示したように、
広告枠の購入
信頼性の高さ
コントロールのしやすさ
の大きく3つの違いがあります。

PRには、提供枠を買わないため、
提供した情報を取り上げるかどうか、その判断に企業は関与できません。
そのため、お金を払って言いたいことを言う広告よりも信頼されやすいという強みがあります。

裏を返せば、発信したい情報がいつ、どこで、どんな形で世の中に出るかわかりません。
コントロールしにくい、という弱点もあるのです。

広告はその逆です。
ペイドメディアである広告手法は、信頼性が下がる分、コントロールが出来る強みを持ちます。

なぜ今PRを学び、行う必要があるのか?

販売戦略など、これまでPRに携わったことのある方は、
「今さらPR? “PRブーム”は過ぎたのではないか?」
と思われる方も多いのではないでしょうか。

実際、年月が経ち、PRブームと言われた時期は過ぎました。
マーケティングや企業コミュニケーションにおいて、「戦略的なPR」の必要性はおおむね認識され、国内のPRは進歩しました。

とはいえ、世界的な視点に立てば、まだまだ日本は遅れています
まだまだ、PRについて知らなければいけないことは沢山あるのです。


そして、2000年以降に登場したフェイスブックやツイッター、インスタグラム。
こういったソーシャルメディアとスマホは完全に僕たちの生活インフラとして定着し、
“リアルの補完”だったデジタルマーケティングが主役を張りはじめました。

マーケティングのデジタル化」の幕開けです。
この10年で、私たちを取り巻く情報環境は大きな変化を遂げてしまったのです。

3つの時代性

情報環境は進化と共に、どんどん複雑でややこしくなってきています。だからこそ、ますますPRの重要性が高まっていきます。

PRを行うべき理由は、本田氏が挙げる「3つの時代性」にあります。

1.「選ぶのがめんどうくさい」の時代
2000年代より始まった情報洪水は現在も進行中で、私たちは広告的なコンテンツを避け、情報を選択することから遠ざかりつつあります。

2.「好き勝手にやらせて」の時代
SNSの発達などによって、情報の受信・発信やコンテンツ消費の主導権は私たちに移りました。
これにより企業がコントロールする情報の影響力は下がっています。

3.「気になるものはそれぞれ」の時代
スマホによって情報入手はパーソナライズされ、情報の流通は限定的になりました。
私たちの関心はSNSにより趣味や価値観を同じくするグループを形成し、社会関心はますます多層化しています。

こういった時代だからこそ、戦略PRが必要とされるのです。
ただ情報を流すのではなく、
"コモン・センスが独立戦争の戦況を変えた"ように、
「人の行動を変えること」を目的として戦略的にPRをしかけていくことが重要になります。

PRの目的は「行動を変えること」

PRの目的は、「人の行動を変えること」ですが、これはあくまでPRの最終段階に位置するものです。
PRを行ったらいきなり人の行動が変わるわけではなく、段階を踏んで変化が起こります。

まずは「パブリシティ」。
パブリシティとは、情報が記事やテレビ番組として世の中に出る段階をいいます。

情報が世の中に出ることによって、やがて人々の「モノの見方」が変わっていきます。
これが、「パーセプションチェンジ」です。

これらの段階を踏んでやっと、「人の行動を変えること」、つまり最終段階の「ビヘイビアチェンジ」が可能になるのです。


戦略PRの成功例を一つ、紹介します。
ベビー用品全般を扱う国内メーカー、ピジョンの成功例です。

この事例は「いい○○」を再定義するとともに、PRの3段階すべてをクリアしています。
ビヘイビアチェンジがどう起こっていくのか、先ほどのピラミッド図を思い浮かべながら読んでみてください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ピジョンは哺乳器や離乳食などのベビー用品全般を扱う国内メーカー。
お子さんがいるご家庭であれば、ひとつくらい商品を利用したことがあるのではないでしょうか?

そのくらいベビー用品の世界では圧倒的な知名度を誇るピジョン。
けれども、あるジャンルの商品だけは苦戦を強いられていました。

それが、ベビーカー

日本市場は同業のアップリカとコンビの「2強」でほぼ8割のシェアを占めていました。
比べて、ピジョンのシェア率はわずか5%以下

そんな中、ベビーカー市場へ本格参入する起爆剤とすべく、2014年に新商品「ランフィ」の投入を行うことを決めました。


これまで日本で「いいベビーカー」といえば、“軽い” “ファッショナブル”なものが主流でした。
ピジョンは後発ですから、これらの属性を追随しても、勝算は低い。差別化する必要があります。

様々な要素が検討され、最終的に注目したのが「タイヤの大きさ」でした。

一般的なベビーカーのタイヤ径は13.8センチ。
一方、ランフィのタイヤ径は16.5センチと大きく、段差を乗り越えやすいという特徴がありました。

いいベビーカーは大径タイヤ

世の中の価値観をこう再定義することが、ピジョンの目標となりました。


ピジョンがまず行ったのは、ベビーカーユーザー1000人に対する意識調査でした。

すると、80%の人がベビーカーで段差を乗り越えるときにストレスを感じていることが分かりました。
また、ベビーカー使用時にもっとも重要なこととして、「子どもの安全性」を挙げた人が55.7%。項目中最多人数でした。

ところが、購入時に段差を乗り越えやすいことを重要視する人は1%にも満たない、ということがわかったのです。

そこで、「いかに段差でつまずくことが問題か」を啓発することが最大の売りになります。
ここにインパクトを持たせなくてはなりません。


このインパクトを支えるべく行われたのが、段差での衝撃実験です。
段差による衝撃について、実証実験が行われました。

すると、段差につまずいたときにベビーカーにかかる衝撃は、なんと自動車の急ブレーキの5倍に及ぶということが分かったのです。
さらに、一般的なタイヤ径のベビーカーよりもランフィのほうが軽い力で段差を乗り越えられることが実証されました。

これらの情報をメディアに発表したところ大きな反響があり、大手新聞にも取り上げられます。
PRの第1段階、「パブリシティ」に到達したのです。


次にピジョンは、2014年12月に製品発表会を実施します。
ママ代表としてタレントの瀬戸朝香さんを起用、段差のストレスについてのトークを展開しました。
2015年からは、このPRストーリーをベースにしたテレビCMが開始。

こうして300を超えるメディアが、高い「段差乗り越え性」をもつベビーカーとしてランフィを紹介し、「段差乗り越え性」がベビーカー選びの新たな指標となりました。

メディア露出の影響はベビー用品店等の店頭にも及び、店員がベビーカー選びの基準の1つとして大径タイヤを勧めるようになります。
こうして目の厳しい母親たちも、段差乗り越え性に関心を持つようになり、「いいベビーカー」の定義が変わったのです。

第2の段階、「パーセプションチェンジ」完了です。


すでに「買う理由」は十分に揃っています。
親たちは大径タイヤという価値に魅力を感じ、実際にランフィの購入を決めます。
PRの究極目的「ビヘイビアチェンジ」が起こったのです。

もともと5%以下だった高価格帯ベビーカーにおけるシェアは、なんと12.6%まで拡大したのでした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

おわりに

「いい〇〇」を変えることの重要性、そして戦略PRの威力、おわかりいただけたでしょうか?

社会常識を変える。
新しい「買う理由」を生みだす。
―PRはビジネスにおいて大切な役割を果たしています。

“3つの時代性”にも表れているように、やみくもに情報を発信しても、消費者にはほとんど届きません。
「商品力」や「宣伝力」だけではもはや人は動かないのです。

だからこそ今、ビヘイビアチェンジというゴールを見据えて、戦略的にPRを仕掛けていかなくてはならないのです。

(文責:森 祐斗、牧野 類)

【まとめ】

  • PRとは、企業や組織が世の中とうまくやっていくための戦略やノウハウ
  • PRの目的は「行動を変えること」
  • PRには、パブリシティ→パーセプションチェンジ→ビヘイビアチェンジの三段階がある

戦略 PR 世の中を動かす新しい 6 つの法則

著者:本田哲也
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2058-7

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799320580/
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799320587

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