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 >   > 第4回 合理化の罠
2018/01/30

第4回 合理化の罠

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近年、AIを使ったシステムが注目されています。
特にDeep Learningは一つのブームになっていて、大手企業がシステムを無料公開したり、東大で企業向けの授業や演習内容の公開を行うなど、一般の人も手が出しやすい状況になってきました。

しかし、新しいシステムの導入は、いい面と悪い面があることを理解した上で使う必要があります。
今回は、『時代を先読みし、チャンスを生み出す 未来予測の技法』で紹介されていた“実験”をもとに、システムの合理化についてその良し悪しを考えていきます。

  1. 膨大なデータ処理を行うことによるパターン化
  2. 短期的な合理性と長期的な合理性
  3. 不確実性を理解したうえで組織を作る

膨大なデータ処理を行うことによるパターン化

佐藤さんが自身の企業で行った実験をご紹介します。
スマートフォン広告の効果を最大化するために行った実験です。

ネット広告を行う際には、極力興味のありそうなユーザーだけに広告を配信していくことが大切になります。
例えば、クリック率や成約率を検証して、最も良い配信先を選定していきます。
この“パーソナライズ能力”を機械と人間で勝負させます。

片方は、マーケティング担当者が手動で広告の配信先を選定します。
今までの経験から、どんなターゲットに広告を見せればよいかを予測することができます。
一方は、人間を一切介さず完全にシステムが配信先を選定します。
システムはそういった知見は持っていないので、初期は様々なターゲットにランダムに広告を配信し、その結果の成否を学習し、徐々に効果の良い配信先を見つけていきます。

結果はというと…
最初の数週間、高い効果を上げたのは、経験が武器のマーケティング担当者でした。
しかし、2カ月以上経つと、システムが自動で配信したほうが圧倒的に費用対効果が高くなっていました。
何百万人とトライアンドエラーを繰り返したことにより、パターンを学習し、ついには人間より圧倒的に高いパフォーマンスを上げていったのです。

配信される規模が大きくなるほど精度が下がる人間に比べ、
システムは、扱うデータが膨大であればあるほどパーソナライズの精度が上がっていきます。
膨大なデータを学習していくことで、私たちには因果関係がわからないようなパターンさえ認識できてしまうのです。

短期的な合理性と長期的な合理性

これだけで終われば、「システムを合理化していくことはよい」という話なのですが、実はこの実験には続きがあります。

システムの優位性は長くは続かず、広告を打つターゲットはどんどん減っていってしまったのです。
システムは、過去の行動履歴から、最も成約しやすいと想定されるターゲット層のみに絞り、広告を配信していきます。
実は、これを繰り返していくと、配信するターゲットの数はどんどん減っていってしまうのです。

これは、現時点でシステムが過去の情報から導き出す「合理的」な答えが、長期的にみれば必ずしも合理的ではないことを示しています。
つまり、ロジカルな情報だけではなく、別の考え方や不確実性を含んで考える必要があるのです。

不確実性を理解したうえで組織を作る

このことに気づき、対策を行っている企業があります。

例えば、過去のデータにとらわれない創造性を手に入れるため、マッキンゼーがデザイン会社を買収したという話があります。

また、googleには「20%ルール」という考え方があります。
就業時間の20%は、会社から指示された業務以外の自分の好きなプロジェクトなりアイデアに時間を費やしてよいというルールです。

このルールは、外部から見ると、Google が社員に与えた太っ腹な福利厚生のように捉えられがちですが、内部では違う意図で執行されていました。
Googleのマネジャーによれば、この仕組みは「リスクヘッジ」のために導入しているそうです。
先ほどの合理性の良し悪しが分かっているからこそ、この仕組みを取りいれているのです。

システムは万能ではありません。
その良し悪しを考え、使い方や対策を取っていく必要があるのです。

【まとめ】

  • システムには良し悪しがあり、その内容を理解したうえで使う必要がある
  • 一見合理的に見えても、合理性を追い続けると、結果逆効果になってしまう
未来予測の技法

時代を先読みし、チャンスを生み出す 未来予測の技法

著者:佐藤航陽
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2211-6

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799322117/
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799322117


【連載一覧】

<第1回 佐藤航陽流「未来予測の技法」>
<第2回 システムを「原理」から考える~イノベーションの本質とは~>
<第3回 テクノロジーは人間の敵なのか?>
<第4回 合理化の罠>
<第5回 来たるべきタイミングを図る>

カテゴリ

応用科学

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