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2018/01/30

システムを「原理」から考える~イノベーションの本質とは~

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今、日本は人口減少や少子高齢化、生産年齢人口の減少などの様々な問題に直面しており、改善や対策が叫ばれています。

資本主義の限界と21世紀の会社のあるべき姿が分かります
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一方日本経済を見ると、企業の“勢い”の低下が見受けられます。
それは、例えば日本の10年国債利回りの超低金利が20年近く続いていることにも表れています。

日本企業が成長していると、次の年に向けて大きな投資を行えることや、利潤を見込めることから、社債の利回りが良くなります。
社債の利回りが良くなると、経済の活性化が起こり、お金がより借りられるようになるため、国債の利回りが良くなっていきます。

しかし、逆の状況になれば、結果として国債の利回りが悪くなり、低金利となっていきます。
まさに現在の状況です。
(詳しくは、『株式会社の終焉』(水野和夫著 / ディスカヴァー・トゥエンティワン)や2016年の中曽宏さんの講演をご参考ください。)

日本は、このような停滞感と様々な課題を抱えた状態で、厳しい国際競争に勝ち抜いていかなければなりません。
そのためには、テクノロジーの進歩による(ライフスタイルも含めた)経済社会の変化を敏感に察知しイノベーションを創出していくことが必要になってくるのです。(国土交通白書2017

しかし、安定した生活を送れることから、そこに対する焦りや必要性が生まれていません。
そして、「イノベーションは今の時代にこそ必要だ」という主張の妥当性がある一方で、現実を見ると、日本でイノベーションがほとんど起こっていないというのも事実です。

それは何故なのでしょうか?
そして一体、どのようにすればイノベーションを起こすことができるのでしょうか?
佐藤航陽さんの新刊『時代を先読みし、チャンスを生み出す 未来予測の技法』から、イノベーションの本質に迫っていきたいと思います。

  1. イノベーションは差し迫った必要性から生まれる
  2. イノベーションを起こすには、原理を考える事が大切

イノベーションは差し迫った必要性から生まれる

イノベーションとは、
新しい考え方や技術を用いて新しい価値を創出し、社会に大きな変化をもたらす行為全般
のことを指します。

ここで、イノベーションを起こし続けている国を紹介します。
シンガポールです。

シンガポールは、決して国土や人口といった資源に恵まれた大国ではありません。
水はマレーシアからの輸入に依存し、自国の面積は東京23区とほぼ同じサイズ、人口も約600万人しかいません。

しかしその中で、外資や富裕層を誘致することで経済を成長させ、金融やテクノロジーにも国として積極的に投資し、アジアのなかでも極めて高い経済成長率を誇ってきました。

では、なぜ継続的にイノベーションを生み出せているのでしょうか?


シンガポールの歴史を、科学技術振興機構の報告書の内容をもとに紐解いて考えてみます。

シンガポールは、1965年8月9日に望まない形で独立しました。

シンガポールは、イギリスから独立した後はマレーシアの一州でした。
マレーシアでは、民族間での争いが絶えず、特に多数派のマレー人と華人の間には大きな軋轢がありました。

その時勢の中、シンガポールのリーダーであったリー・クワン・ユーは(マレーシアのことを思い)多民族主義を主張していました。
しかし当然、その主張は、マレー人政治家や当時の首相であるラーマンの「マレー人による統治」を望む人々とは相いれないものでした。
マレー人政治家の圧力と、民族間の争いに拍車をかけないために、ラーマン首相はシンガポールを独立させることとしたのです。

自国の資源不足の中、一刻も早くマレーシア依存から自立しなければならない必要性に迫られたシンガポールは、労働力や能力・技術といった資源を海外に求めざるを得ませんでした。

1970 年代後半になると、東南アジアの他国が低賃金で労働者を雇用できるようになり、安く製品を生み出すことができるようになりました。
シンガポールは、低コストでの生産が出来ない中、他国との産業の差別化を図るべく、高付加価値産業やハイテクノロジー(ハイテク)分野に注目していきます。

更に1980 年代から1990 年代になると、企業への優遇措置を行うようになります。
その結果、海外からの技術が自国の技術へとつながり、国際競争力を伴う経済発展が進んでいきました。

現在の海外企業・人材誘致や、経済成長という手段は、このような歴史の中で生まれました。
他国との競争に生き抜くために取らざるを得ないものだったのです。

『未来予測の技法』には、イスラエルの例も紹介されています。

詳しくは本書を読んでいただきたいですが、実はイスラエルは知られざるイノベーション大国で、第二のシリコンバレーとも言われています。
中東は政治的な緊張関係があり、周辺国とも争いが絶えません。
ユダヤ人国家であるイスラエルは、数千年の長い迫害から生き延びるために、知恵を身につけざるをえなかったという必然性があったのです。

これらの国を見てみると、ある共通した特徴がありました。
それは、イノベーションをする「差し迫った必要性」があることです。

これを裏返せば、今、なぜ日本でイノベーションが起こりづらいのかも見えてきます。

過去、敗戦から他国に追い付かなければいけない日本は、産業を発展させ這い上がるべく高度成長の時代を迎えました。
その技術や他国からの評価といった資産は、今の日本に多くの恩恵をもたらしました。

しかし現在、他国からの圧力もなく、自国の市場もそれなりの規模がある日本には、イノベーションをする「差し迫った必要性」が存在していないのです。

(余談ですが、情報も人も自由に行き来が可能な現代において、実質的に国境はすでに消えつつあります。
本当に「イノベーション」が必要なのは、国家や国民単位でしか物事を捉えられない価値観かもしれないと佐藤さんは述べています。 )

イノベーションを起こすには、原理を考える事が大切

とはいえ、日本や世界を変えるためには、イノベーションが必要です。

イノベーションは人々の必要性から生まれてきました。
現在の社会システムは過去のイノベーション(≒過去の人々の必要性)から生まれたものですから、
システムがなぜ生まれたのかという理由に立ち返ることで、イノベーションの方向性や未来を予測するヒントが見えてきます。

つまり、
 個々の社会システムが生まれた理由に立ち返り
 その要件をより効率的に満たす方法(テクノロジー)を探す
ことで、これからの社会の成り立ちを考えていくことができるのです。

「必要性」とは、未来の方向性をおおまかに示してくれる、コンパスのような存在なのです。

ここでは、「資本主義」というシステムを例に、資本や貨幣が生まれた背景がどう現在・未来のシステムにつながっているかを考えていきたいと思います。

① 資本主義が生まれる必要性
そもそも、資本主義のベースとなる貨幣は、物々交換の不便さを補う仕組みとして発達しました。
”腐らず、軽い”貨幣は、価値を媒体するものとして使われるようになっていきました。

その貨幣が歴史の表舞台に出てくるのは、18世紀頃になります。
市民革命と産業革命により、労働に対して資本の対価を得る労働者と、資本を使って工場を所有する資本家に立場が分かれるようになりました。
今まで身分が重要であった社会が変わり、貨幣が社会の主役となっていったのです。

次に起こったのは、「価値からの分離」です。
18世紀の産業革命以後、貨幣が社会の中心になるにつれ、「価値をどう提供して貨幣を増やすか」を考えるよりも、「貨幣から貨幣を生み出す方法」を考えたほうが効率的であることに、一部の人々が気づきはじめます。
証券化に代表されるように、本来価値を仲介するツールだった貨幣が、価値から分離してひとり歩きを始めます。

さらにこれが進み、「証券を証券化する」手法(信用創造)まで開発され、本来の目的とはかけ離れたものになっているのが少し前の状況です。

② より効率的に満たす方法(テクノロジー)
情報技術(IT)などの新しいテクノロジーにより、貨幣にたいする概念・価値は変化していきます。

ITが誕生する前は、記録手段の主流は紙でした。
そのため、紙幣も発展していきました。

しかし、ITの発展により、様々な価値がデータ化されると、人々は「貨幣」そのものではなく、その根源である「価値」そのものを重視しはじめます。

チャンネル登録者数やフォロワー数で評価をされるユーチューバーやインスタグラマーといったインフルエンサーの価値が上がっているのは、これが背景にあります。
今まで評価ができなかった「他者からの注目」 という価値を、いつでも好きなタイミングで人、資本、そして情報という別の価値に転換することができるようになったのです。

佐藤さんの言葉を引用すれば、資本を積み上げることに特化した従来の資本主義から、価値主義に社会の軸足が動いていく(『未来を先回りする思考法』佐藤航陽著 / ディスカヴァー・トゥエンティワン)のです。

この先には、「価値」が「情報」に集約されていくことが考えられます。
資本だけを持っていても情報がなければ何もできない未来があるかもしれません。
また、情報や価値を扱う部分に注力することでイノベーションを起こす可能性が見えてきます。

【まとめ】

  • イノベーションは差し迫った必要性から生まれるものである
  • 現在の社会の形になった理由を考えることで、未来の社会システムが予測できる
  • いままで資本で評価をされてきた価値が、価値そのものとして評価されるようになってきた

未来予測の技法

時代を先読みし、チャンスを生み出す 未来予測の技法

著者:佐藤航陽
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN:978-4-7993-2211-6

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4799322117/
D21サイト:http://www.d21.co.jp/shop/isbn9784799322117


【連載一覧】

<第1回 佐藤航陽流「未来予測の技法」>
<第2回 システムを「原理」から考える~イノベーションの本質とは~>
<第3回 テクノロジーは人間の敵なのか?>
<第4回 合理化の罠>
<第5回 来たるべきタイミングを図る>

カテゴリ

応用科学

タグ

佐藤航陽

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